戻る「第一次南極観測越冬隊と犬たち」講演会
 講演&トークショー

     
2013年8月25日、「第一次南極観測越冬隊と犬たち 〜15頭の樺太犬はなぜ昭和基地に残されたのか ―
『タロ・ジロ』の真実のものがたり〜」の講演&トークショー(東京・武蔵野公会堂ホール)に行って
きました。
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 きっかけは犬たち
   
この講演は、朝日新聞に掲載された「東京タワー下のタロ・ジロたち樺太犬像が撤去される…」という記事がきっかけで、第1次隊の犬ぞり係だった北村泰一氏が「像をきちんと保存して後世に伝えよう。そのために講演会をやろう」と、記事を書かれた中山記者に提案され開催が実現したのだそう。
(北村氏は「南極越冬隊 タロジロの真実/小学館文庫」の著者でもあります)

会場を見渡すと、中高年を中心に親子連れや若いカップルなどぎっしり。定員350名の倍以上の参加申込みがあったそうで、幅広い層からの関心の高さを感じます。

最初は、中山記者が南極大陸の基礎知識や観測隊の仕事、ご自身が観測隊として調査に参加した隕石採取のことなどをわかりやすく解説。スライドも蜃気楼や幻日の不思議現象、ケンカしていて氷の割れ目に落っこちたペンギン、氷点下40℃での露天風呂などなど、夏休み中の子どもたちも興味津々で見入っていました。


東京タワーの足元に建っていた像
”南極つながり”で、以前紹介したページはこちら↓
http://www.jare.org/Repo10/inf5.cgi?mode=main&cno=9

 1次隊の思い出を語る

北村氏が3次隊でタロ・ジロに再会した写真と共に
   
続いて、北村氏が語る60年近く前の1次隊の思い出・・・。
観測隊員希望者が殺到する中で犬係になった経緯や、日本の南極観測スタートに向け尽力された方々のこと、越冬隊長宅に下宿していた北村氏が見た越冬隊長の涙など、経験者から聞く“はじまり”の実話はどれも感動です。

そして、お話の中心はもちろん出発後の犬たち。
45度も傾く宗谷船上でのエサやりやフンの処理、体重測定はいろいろ持って行った中で天秤棒が一番だった話。
南極到着後は、犬たちはオーロラが出ると吠えるけれど、曇っていても空に向かって吠え出す時があり、それはオーロラの音が聞こえるからだろうという話。(北村氏は犬係であると同時に、研究のご専門はオーロラです)

さらに、ユニークなエピソードの数々も。ボツンヌーテンという山に犬ぞり隊を組んで行った際、犬たちは見渡す限りの大雪原で方向がつかめず、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。そこで「道をつけてこい」と言われた最年少の北村氏、雪原をひたすら走り続け、それを犬たちが追いかけて進むという不思議な構図に。
おまけに、それだけ体力を使えば必然的にお腹も減るわけで、通常の食事だけでは足りずに、ついに犬たちのエサのビスケットにも手を出してしまった話。
そんな当時のことを“証拠写真”と共に、今まさにここで起こっているかのように話す北村氏に、皆さん大笑いでした。
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 サプライズゲスト登場!

左が第1次越冬隊の3人

南極観測を語る北村さん(右)
   
続いて、第1次の気象担当・村越氏と通信担当・作間氏がサプライズゲストで登場!歓声と拍手で迎えられました。3人はお客さんたちの質問に答えながら、友情は今なお健在と感じさせるとても温かい雰囲気で、会場がいい空気に包まれました。

そんな中、村越氏はもう一人の犬係氏にまつわる面白話を披露。
ある時、犬係氏が「明日は天気が悪そうだからエサを2日分あげてきた」と話していたら、それを知った越冬隊長が怒ったそうです。「犬が、これは今日の分で、こっちは明日の分で、なんて考えるわけないだろー!」と。確かに・・・。かつて接岸不可能とまで言われた極限の地で展開されていた、あまりに身近すぎる裏話!?

そして最後は、北村氏が「困難の中で最初に何かをやり遂げることの素晴らしさ」を立ち上がって熱く語り、大きな拍手が沸き起こりました。

1次隊の苦労話に胸を打たれ、数々のユニークなエピソードに笑った2時間強の講演会&トークショー。
東京タワーから撤去後の犬たちの行く末を心配する、今なお“現役犬係”の北村さんの愛情溢れるお話に「この人が犬係で良かった」と思った方も多かったのではないでしょうか。そして誰より、無事に立川の極地研究所に引っ越しが決まった15頭の犬たちが・・・。

(k.suzuki)
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